クロアチアの「ザグレブ派」と称されるアニメーション作品をできる限り年代順に、作家ごとに分けてまとめています。中々触れることがないアニメーションかもしれませんが、それぞれ10分ほどの短編作品なので、気になった作品から気軽にどうぞ!
- ザグレブ派のアニメーション
- ドゥシャン・ヴコティチ (Dusan Vukotic)
- ヴォトロスラヴ・ミミツァ (Vatroslav Mimica)
- ボリス・コラール (Boris Kolar)
- ネデリコ・ドラギッチ (Nedeljko Dragic)
- ニコラ・コステラツ (Nikola Kostelac)・ヴラド・クリストル (Vlado Kristl)
- アレクサンドル・マルクス (Aleksandar Marks) ウラディミール・ユトリシャ (Vladimir Jutrisa)
- ボリヴォイ・ドヴニコヴィチ=ボルド (Borivoj Dovnikovic)
- アンテ・ザニノヴィチ (Ante Zaninovic)
- パヴィオ・シュタルテル (Pavao Stalter)、ブランコ・ラニトヴィチ
- ズラトコ・ボウレク (Zlatko Bourek)
- ズラトコ・グルギッチ (Zlatko Grgić)
- ヨシュコ・マルシッチ (Josko Marusic)
- ズデンコ・ガシュパロヴィチ (Zdenkó Gasparovich)
- クレシミル・ズィモニッチ (Kresimir Zimonic)
- ラストコ・チリッチ(Rastko Ciric)
- ゴラン・スジェカ (Goran Sudzuka)
ザグレブ派のアニメーション
クロアチアの首都ザグレブではじまった「ザグレブ・フィルム」。もともと風刺画や新聞漫画が盛んであったこともあり、これらの業界から多くのアニメーション作家が生まれました。東欧圏では、共産主義国(*1991年に旧ユーゴスラヴィアから独立)であったという理由からも資金に困ることなく商業的になる必要がなかったため、独創的で実験性の高い作品を多く残しています。世界規模のアニメーション・フェスティバル「アニマフェスト・ザグレブ」もおかれるなど、実はアニメーション大国であり、世界のアート・アニメーションの本拠地なんです。第二次大戦後のユーゴスラビアで、雑誌編集者ファデル・ハディチが中心となって開設したアニメ・スタジオでアニメーション制作を開始し、1951年には『キコはいかにして生まれたか(KAKO SE RODIO KICO)』を制作します。資金難のために一旦はスタジオ閉鎖を余儀なくされましたが、作家達は低予算で制作できる「リミテッド・アニメーション」の手法を用いて、ディズニーに対抗可能な強い印象を生み出す工夫を行いました。1956年には新しく「ザグレブ・フィルム」が開設され、1950年後半には欧米の批評家によって「ザグレブ派」という尊称で親しまれるようになり、現在に至ります。
ドゥシャン・ヴコティチ (Dusan Vukotic)
(1927.2.7-1998.7.8)
ザグレブ派の代表的な作家であるドゥシャンは、シンプルな絵とデフォルメした動きが特徴的な作家です。 代表作には、『銀行ギャング』(CAROBNI ZVUCI,1957)、『ピッコロ』(PICCOLO,1958)、『戦争ごっこ』(IGRA,1962)などがあり、アニメーションだけでなく、実写作品『第七大陸』(SEDMI KONTINENT,1966)も手掛けています。
(1927.2.7~1998.7.8)
『復讐者』(1958)
Revenger/OSVETNIK (14分)
セリフなし
『ピッコロ』(1959)
Piccolo/Piccolo (9分)
セリフなし
隣同士にすむお二人さん。仲良くお互いに助け合い、平和な生活を送る日々。しかし、ある日、音が嫌いな隣人が隣人のハーモニカの「音」が気になり始め…
『月世界の牛』(1959)
Cow on the Moon/Krava na mjesecu (10分)
セリフなし
『代用品』(1961)
Ersatz/SUROGAT (9分)
セリフなし
『戦争ごっこ』(1963)
The Game/ IGRA (11分)
セリフなし
その他
『アートのためのアート』(仮)原題=EL ARTE POR EL ARTE (1969)
ヴォトロスラヴ・ミミツァ (Vatroslav Mimica)
(1923.6.25~)
劇映画監督からキャリアをスタートさせますが、ドゥシャン・ヴコティチの作品の脚本を手掛けるようになりアニメーションの演出の道に進んだ作家です。代表作には、『孤独』(SAMAC, 1958)、『永遠自動車会社』(PERPETUUM&MOBILE,LTD,1961)、『日記』(MALA KRONIKA,1962)、『チフス』(TIFUSARI,1963)などがあり、他にも様々な作家と共同制作を行なっています。
『孤独』/ 『孤独な少年』(1958)
The Loner(Alone)/Samac (12分)
セリフなし
会社の歯車の一部になって働き、都会の喧騒に疲れて、恋人にまで冷たい態度を取ってしまうようになってしまった男を描いた話。この作品はザグレブ派の進むべき道を示した作品とも言われていて、グラフィックとしての洗練度を高め、絵や動きを際限まで省略したスタイルは後のザグレブ派の作家の指針となりました。
ボリス・コラール (Boris Kolar)
『ブーメラン』(1962)※
Boomerang
2014年から2015年にかけて神奈川県近代美術館で開催された「東欧アニメをめぐる旅ーーポーランド・チェコ・クロアチア」展で紹介されていたようですが、残念ながらあまり出回っていない作品のようです。ボリス・コラールは、こちらの作品よりも次に紹介する『ワン・ワン』でその名を轟かせました。

『ワン・ワン』(1964)
Wow Wow/ Vau Vau (9分)
セリフなし
ネデリコ・ドラギッチ (Nedeljko Dragic)
(1936.9.13)
ザグレブ派の中でも最も有名なアニメーション作家といってよいでしょう。漫画家として有名だった彼は、短編作品のデザインを手掛けた後、1965年、自身の漫画を基に自身の演出で『エレジー』を制作しました。1974年には、『日記』でザグレブ・フェスティバルのグランプリを獲得します。
『エレジー』(1965)
Elegy/Elegija (3分)
セリフなし
1966年ヴェネツィア映画祭、フィラデルフィア映画祭受賞作品。
牢獄の窓越しに見える一輪の花の成長を楽しみにする囚人。ところが刑期が終わり釈放された彼は…
『日記』(1974)
Diary/ Dnevnik (8分)
セリフなし
1974年ザグレブ映画祭グランプリ、ザグレブ市賞ほか受賞。
何もない道を歩いていく一人の男。やがて彼は雑然とした都市の交通網へ、入り組んだ人間社会へと飲み込まれて行く…
『お出かけ!!』(1981)
Way to Your Neighbour/Put k susjedu

※その他
“Idu dani” (1969)
”Tup Tup” (1972)
“Dnevnik” (1974)
※インタビュー
ニコラ・コステラツ (Nikola Kostelac)・ヴラド・クリストル (Vlado Kristl)
(Kostelac=1920.9.7-1999.1.15) (Kristl=1923.1.24-2004.7.7)
『あら皮』(1960)
Šagrenska koža (11分)
バルザックの同名の小説を原作とするアニメーション作品。ザグレブ派の作品として重要な位置に置かれるものの、少しマイナーな作品。
『ドン・キホーテ』(1961)
クリストルによる作品。
Don Kihot
アレクサンドル・マルクス (Aleksandar Marks) ウラディミール・ユトリシャ (Vladimir Jutrisa)
『ハエ』(1967)
The Fly/ Muha (7分)
セリフなし
ただハエの音が響き渡る空間の中に男が一人。ハエを踏み潰したと思いきや、ハエがどんどん巨大化する。そして、いつの間にか立場は反対になり、最終的には…
脚本には、『孤独』のヴァトロスラフ・ミミツァが参加しており、 ニューヨーク映画祭やロンドン映画祭等で多くの賞を受賞している有名な作品の一つです。
ボリヴォイ・ドヴニコヴィチ=ボルド (Borivoj Dovnikovic)
(1930.12.12)
新聞の風刺画家・漫画家からキャリアを始めたボルドは、1961年に『LUTKIKA(THE DOLL)』で監督デビュー。代表作には、『儀式』『好奇心』などが挙げられ、パンチのあるブラック・ユーモアの溢れる作品を多数制作しています。 1977年から数年の間、国際アニメーション映画協会の一員であった彼は、ザグレブ・アニメーション・フェスティバルには第1回大会から運営に携わっており、アニメーションの発展に貢献した重要なアニメーターの一人と言えるでしょう。
『好奇心』(1965)
Curiosity/ ZNATIZELJA (7分)
セリフなし
ベンチに座る男がもつ紙袋の中身が何なのか気になって仕方がない!果たしてその中身は…
『儀式』(1965)
The Ceremony/CEREMONIJA (3分)
セリフなし
写真撮影で5人の男たちはポーズを繰り返す。ようやく整列し終え撮影が終わったと思えば…
『ケロケロ!』(1967)
Krek(9分)
セリフなし
1968年ベルリン映画祭受賞。
カエルを連れ軍隊に入隊したマックに上官はカエルと引き離そうとするが…
『歩行訓練』(1978)
Skola Hodanja/Learning to walk (8分)
セリフなし
ちょっと変な歩き方をする男の子。色々な人々が、それぞれの「正しい歩き方」を彼に強要する。
アンテ・ザニノヴィチ (Ante Zaninovic)
『壁』(1966)
The Wall/ ZID (3分)
セリフなし
立ちはだかる厚く高い壁。一人の男は自分で壁を崩すことは諦めた模様。後から現れたもう一人の男は必死になって壁を崩壊させることに成功したのだが…
パヴィオ・シュタルテル (Pavao Stalter)、ブランコ・ラニトヴィチ
(パヴィオ・シュタルテル… 1929.11.25〜)
『赤き死の仮面』(1969)
Mask of the Red Death(Masque of the Red Death)/ Masca crvene smrti (9分)
セリフなし
1971年アヌシー映画祭、ニューヨーク映画祭、ほか世界の多数の映画祭で受賞。
エドガー・アラン・ポーの有名な小説『赤死病の仮面』を、アニメーション化。 ヨーロッパを襲った赤死病が、死神となって現れます。
ズラトコ・ボウレク (Zlatko Bourek)
『猫』(1971)
The Cat/ Ezop (10分)
セリフなし
ズラトコ・グルギッチ (Zlatko Grgić)
(1931.6.21-1988.10.4)
ズラトコの作品の特徴は、愛らしいキャラクターとコメディ要素の強い作風と言えるでしょう。1965年『悪魔の仕業』で監督デビューし、イギリスのアニメーション作家ボブ・ゴッドフリーとの合作である『ドリーム・ドール』で第52回アカデミー賞において、アカデミー・ショートアニメーションフィルム賞を受賞しました。1960年代の後半には、カナダに渡り広告業と大学教育に携わりました。
『マキシ・キャット』(1972)
Maxicat (各エピソード1分程)
25年以上もの間、旧ユーゴの茶の間を賑わせた人気シリーズ。各1分という短い作品で、新聞の四コマ漫画のようなアニメーションです。
『歌うブタ』(1965)
Musical Pig/MUZIKALNO PRASE (8分)
セリフなし
綺麗な歌声でオペラを歌う事のできる1匹のブタ。人々はその歌声を楽しみますが、最後の目的はただひとつ…
『夢みる人形』(1979)
Dream Doll / ZEMLJA SNOVA(11分)
セリフなし
1979年アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート。
イギリスのアニメ作家ボブ・ゴッドフリーとの共同制作。
中年の男性が、孤独を癒すためにドリーム・ドールを購入しますが、ドリーム・ドールは空に浮かびながら男性の仕事場について来てしまいます。そこでみんなに知られた彼は会社をクビになってしまいますが、なお優しく寄り添ってくれるドリーム・ドールに愛情を注ぐようになり…というお話です。

ヨシュコ・マルシッチ (Josko Marusic)
(1952.3.27〜)
ヨシュコ・マルシッチは彼自身の番組のTVパーソナリティとしても有名な人物です。アニメーションだけでなく、漫画やイラスト、建築、アニメーション理論、映画、文学等、様々な分野に目を向け、ヨーロッパの様々な芸術系大学において教育にも携わっており、クロアチアで最も名誉のあるOrder of Danica Hrvatskaを受賞しています。
『内側と外側』(1977)
Inside and Out / Iznutra i izvana (2分)
セリフなし

『魚眼』 (1980)
Riblje Oko
『超高層ビル』(仮)原題=Neboder(1981)
Neboder/Skyscraper (9分)
セリフなし
ズデンコ・ガシュパロヴィチ (Zdenkó Gasparovich)
(1937〜)
『サティ・マニア』(1978)
Satiemania / Satiemania(13分)
セリフなし
エリック・サティの感傷的な音楽に合わせ、大都市の喧騒を風刺的に描き出す。
クレシミル・ズィモニッチ (Kresimir Zimonic)
(1956〜)
『アルバム』(1983)
Album (10分)
セリフなし
家族のアルバムをめくる1人の女性。1枚の写真から、幼少期の思い出が甦る…。
『蝶々』(1987)
Butterflies / LEPTIRI (9分)
セリフなし

ラストコ・チリッチ(Rastko Ciric)
『バベルの塔』(1987)
The Tower of Babel /LALILONSKA KULA (4分)
落下し続ける一人の男。彼の先祖は落下しながら一生を過ごし、彼もまた、生まれてからずっと落下し続けている。ところが、ようやく地上に着地し、彼の「落下」の人生にもようやく幕が下ろされたかに思われたのだが…。
ゴラン・スジェカ (Goran Sudzuka)
『パラノイア』(1992)
Paranoia /PARANOJA (3分)
セリフなし
誰かに追われ逃げ回る青年。ようやくアパートに逃げ込んだが、しばらくして彼がドアを開けると…
おまけ 〜Professor Balthazar〜
バルタザール教授
公式のYou Tubeアカウントもあるようです!
〈参考〉
上記の作品や作家の表記方法・邦題、製作年、受賞歴等の情報は以下の文献・データベースを参考にしています。
IMBb・武蔵野美術大学 美術館・図書館 イメージライブラリー 映像作品データベース
越村勲, 『クロアティアのアニメーション――人々の歴史と心の映し絵』, 彩流社, 2010.
こちらに付属しているDVDには、『儀式』、『歌うブタ』、『サティ・マニア』、『アルバム』の4点に加えて、40分でザグレブ派の40年を振り返るという日本語字幕付きの番組も収録されています。
『東欧アニメをめぐる旅――ポーランド・チェコ・クロアチア』(展覧会図録), 神奈川県近代美術館, 求龍堂, 2014.
クロアチアのアニメーションに関して書かれた日本語の文献は非常に貴重ですので、興味を持たれた方はぜひご覧ください。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございます!すべてをまとめようとすると、とっても長い記事になってしまいました。ページはあえて変えずに、、
(短編作品とは言っても、すべてを見るには4時間くらいいりますね!)
ブログがすっごく重くなっちゃいました(汗)大丈夫かな?
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